konbu's blog

PHP/Ruby/Python あたりが仕事で使っている言語です。プログラミング、学習や教育ネタを書いていきます。

プログラマが知らない会社と税金と保険の話

プログラマと書いているけど、実際には会社員と置き変えられる話。

最近はエンジニアはフリーランスになるべき or 会社員を続けるべき論争みたいなのが多くネットで見られるようになったが、正しいコスト感を持った上でその話を展開する人が全然見られず、大企業ベースのコスト計算で話をする人や、フリーランスの売上がそのまま入ってくるみたいな事を言う人まで色々である。

個人的には会社員にもフリーランスにもそれぞれメリットデメリットがあるので、正しく理解した上で自分にあった働き方を選べば良いと思うんだけど、皆メリットデメリットをベースに話をするから余計にややこしくなってる気はする。

僕はメリットとデメリットなんていうのは主観に依存しているため、他人が言う評価は所詮他人事として自分で判断するしかないと思っている。 その上で、事実だけを書いている所は無いかな?という気持ちで自分の知っている範囲でこの件に関して書いてみる。

もちろん僕は税制や国策の専門家ではないので無知な部分も多いし、間違ったことを発信している可能性は大いにあるので、ちゃんとソースを自分で確認して判断して欲しい (こう書いておかないとお前のせいで大変な目にあったとか言われかねない空気を現代のネットでは感じる)。

年収の話

正直、みんなが気にしてるのなんて、色々すっとばしてここに尽きるんだと思ってる。 個人的な感覚で言えば、常駐型フリーランスでの単価月 60 万というのは、本当に直ぐ貰えるようになると思う。 これは本当に謎でしかないんだけど、世の中何故か 60 万という数字を律儀に守ろうとしていて (この辺に SES 業種の闇を感じる) 、経験年数 3 年くらいあればそれなりに真面目に勉強を続ける人で、最近のフレームワーク使えれば出るのではないだろうか。 これは大阪で活動している僕の感覚なので、単価感が 10~20 万くらいベースが高くなってそうな東京だと下手したら 2 年くらい業務経験あれば貰えるんじゃないかな。

ただ、一言言うと、貰えるようになるというのと、業務が滞りなく出来るというのとは全然意味が違うし、自分の能力にあっていない金額を貰うと、質問すら出来ない空気に呑まれて自爆するハメになるとも書いておく。

その上で、月 60 万の話を続けると、フリーランスで月 60 万が実際どれくらいの価値があるかをちゃんと計算しないといけないと思う。

月 60 万という事は、年 720 万で、一見かなりの金額に見える (いや実際結構な金額なんだけど)。 しかも商売という事になるので、ここに消費税を含んで請求できる (たまに消費込で 60 万とかの話があるけど、消費税別を前提とする)。 フリーランスを名乗るという事は、個人事業主か法人の代表という事だと思うけど、両方年間の売上が 1000 万未満の場合は消費税を国に収めなくても良い制度があり、今だと消費税分 8% が売上に加算される事になる。

つまり、720 万の * 8% なので、加算後の金額は 7,776,000 円となる。金額 50 万マシくらいとなる。 ここまでが常駐型フリーランス売上の話で、仮説単価 60 万の限界点となる。

残業など、超過分の請求が乗る事も良くあるが、そこは計画的に実行される確定値ではないため計算に入れないものとする。 あとはどれだけ金額が下がるのか、リスクと税金の話になってくる。

リスクの話

フリーランスのリスクの話は各所で色々言われているが、一番は自分が動けなくなった場合のリスクである。 これは病気、事故など、心身どちらかに問題が発生し、労働できなくなった場合に保証されるものはどこにも無いという話である。 フリーランスには労災もなければ有給もないし、勿論、産休も育休もない。 つまり何も法は守ってくれなくて、弱者とすら見てくれなくなるという事である。 そのため、フリーランスになる事で売上を全て自分のものに出来る反面全てのリスクは自分でケリをつける必要がある。 もちろん不祥事を自分が起こした時に守ってくれる先輩も、会社すら無いので損害賠償イコール自腹清算しかない。 とは言え、常駐型フリーランスには損害賠償はそうそう発生しないので、不用意にぺらぺらと現場の話を外で話さないという事 (NDA はちゃんと結びましょう) が重要になる。

更に、営業も自分で行なう必要があるため (代行やエージェントを使ったりは自由)、そこもリスクになる。 年売上の仮説を立てたけど、実際には営業活動が上手くいかない場合は年の売上が毎月 60 万下がるという話になる。

税金と保険の話

正直ここまでの話はなんとなく知ってたり、良く知ってるなんて人もたくさんいると思う。 考える事をやめる人がいるとするとここからで、税金と保険を詳しく理解しておかないと、それぞれのメリットデメリットを自分にあてはめて考えるところまで行きつかないんじゃないかと思う。

消費税

これは自分が営業を行なって得た売上に対し消費税を払う必要があるという話なんだけど、前述した通り、年間1000万未満の場は払う必要がない。 また、実は1000万を越えた場合でも、2 期先までは支払う必要がない。 これは、1 年の売上が 1000 万を越えた申告をしてから、2 期後の売上から消費税の回収が始まるためである。 そのため、創業初年から 1000 万を越える場合には 2 年免税期がある事になる。 また、消費税は自分の商品の値段に対し別途請求を行なう事になるので、常駐型フリーランスを行なう場合、自分の値が月額 60 万だと主張する場合は、60万 + 税を請求することになる。 気をつけたいのは、不親切なエージェントや顧客の場合、税込で 60 万という価格設定で話を通してくる可能性が大いに考えられるという事。 年間で 50 万程度も金額差がでるから顧客もエージェントも消費税をどうにかして払いたくないという訳である。

住民税

会社員として給料を貰っている場合、住民税は給与に合わせて徴収される為フリーランスに比べると控えめだと思うが、個人事業主の場合、売上 - 経費 = 収入になるため、この収入分に合わせて徴収されてしまう。 つまり、経費が無い場合は 770 万オーバーの収入に対して住民税を徴収される事になる。

僕は大阪の人間なので、大阪市で計算してみる。 詳しい計算は面倒なので、下記シミュレータで計算してみて欲しいが、会社員とフリーランスでこれだけの結果が変わる。

juuminzei.com

会社員、年収 770 万想定

  • 542,800 円

個人事業主、事業所得 770 万想定

  • 739,800 円

個人事業主が何故住民税が高くなるかというと、会社員には実は給与所得控除という所得に関する控除項がある。控除というのは実際には給与を貰っているが、税額計算の時には控除金額分だけ減らして計算してくれる仕組みの事。

計算式は国税庁にある。

www.nta.go.jp

今回のケースでは、770万の給与という想定のため、660 万越かつ 1000 万未満のレンジに収まっている。 そのため、計算式は給与額の 10 % + 120 万が控除額となる。 770 万の 10 % は 77 万なので、 会社員というだけで、197 万が控除対象となり、額面では 770 万とある筈なのに、実際の計算では 570 万程度で計算されるのである。

個人事業主は利益計上額がそのまま計算に乗るため、経費 0 円の場合、770 万から計算される事になる。 この時点で会社員よりも不利な状況にあるのが良くわかる。

所得税

所得税は住民税と並んで給与から引かれる謎のお金になっている人が多いのではないかと思う。 ここでも先程使った計算の給与所得控除が出てくる。

その前に国税庁のリンクを貼る。

www.nta.go.jp

会社員の場合、給与所得控除を給与額面から引いた額をベースに所得税の計算を行なう。 給与 770 万の場合、200万弱が控除されるため、おおよそ 570 万が所得税計算の対象となる。

上記リンクの表と控除後の金額を照らしあわせると、「330万円を超え、695万円以下」に合致する。 この場合の税率は 20% で、控除額は 427,500 円である。

つまり、570 万の 20% が所得税として計算され、その計算結果の 114 万から 427,500 円を更に控除する。 結果、所得税額は 752,500 円となる。

個人事業主の場合は、給与控除がないため、770 万をベースにする事になる。青色申告の場合は最大 65 万の控除を得られる。 ここで新しい言葉の青色申告というものが出てくるが、ここでは詳しく説明せず、経費計算をちゃんとすれば受けられる控除という認識で通す (受ける為の条件が細かくあるが、ここでは話に絡んでこない)。

控除出来る金額については、保険料の控除がでてくる。配偶者控除など細かな (かつ人による) ものは省く。 保険料の計算は後で再度書くので、こちらでは結果だけ話をする。

770 万の収入とすると、残念ながら医療分保険料と後期高齢者支援金分保険料の 2 種が max となるため、58 万 + 19 万で保険料は徴収額が 77 万となる。 また、国民年金も控除の対象になるため、年金の計算も必要になる。 国民年金は収入に関係なく一律計算で、2019年5月7日、令和元年時点で 16,410 円/月 となる。 そのため、1 年で 196,920 円の徴収額となる。 さらに基礎控除 (全員受けられる控除) が 38 万円である。

これらを使って所得税額を計算すると、7,700,000 - 650,000 - 770,000 - 196,920 - 380,000 = 5,703,080 円が所得税計算対象額となる。 所得税速算表から「330万円を超え、695万円以下」が適応される事が分かるため、税率 20% で 約 114 万、控除額 427,500円 を引くと会社員と同じ 752,500 円が控除後の所得税額となる。 実際には個人事業主にはここに経費計算分が税率計算前に実行されるため、経費を使う前提で考えるとようやく会社員と比べて遜色ないか、それ以上の効果を得る事ができると言える (ただ単純な生活費は経費にできないため、常駐型フリーランスでは経費に出来る項目がかなり少なくなる)。

保険料

会社員だと社会保険料という言葉を良く聞くと思う。 医療を受ける際に恩恵を得ている物なのだけど、会社員はこれを一部所属している会社に肩代わりして貰っている。

どういう事がと言うと、雇用主は社会保険料の半分を会社資産から支払う事が決められている。 つまり、給与から天引きされている額面と同じ額を会社が支払っている事になる。 良く会社員は得しているという話を見られるのはこれがあるからというのも大きい。

ただ、本当にこのおかげで会社員が得をしているかと言うと、会社側は社員の給与を決定する際にこの社会保険料の支払い分まで考慮して決定するため (逆にしていないのならそれはヤバイ)、そもそもその半面の支払い分までが実際の会社員の給与額面だという見方もできる。

実際に計算してみる。 これも自治体によって金額が違うため大阪市のデータを参照する。

www.kyoukaikenpo.or.jp

こちらから大阪を参照する。

年収 770 万という事は、月額報酬が 64.16 万円程度となるので、こちらに該当する行を探す。 該当等級は 35 等級 (非常に高い...) となり、料率は保険料が 10.19% の 66,235 円で、厚生年金は 18.30% だけど最高額になるため 113,460 円となる。 これを会社と社員で折半するため、支払い額はそれぞれ半額になり、33,117.5 円 と 56,730 円 で 89,847.5 円が月々の支払いとなる。 年間では 1,078,170 円を支払う事になる。

個人事業主国民健康保険国民年金の支払いがあるが、その支払いは社保よりは安く (社保というよりは厚生年金が高い)、住民税の話で計算した内容である、58 万 + 19万となる。

その計算根拠は下記 2 ページである。

www.city.osaka.lg.jp

国民健康保険は内訳が医療分保険料と後期高齢者支援金分保険料の 2 種あり (歳をとると介護保険料も乗る)、それぞれを計算して足した金額が支払い額となる。 仕組みはどれも「平等割」+「均等割」+「所得割」となっており、所得割以外は対した金額ではないので割愛。 所得割は、算定基礎所得金額と書かれているせいで分かりづらいが、総所得金額からの算出で、控除額 33 万があるというだけのため、総所得が 770 万とするなら、770 万 - 33 万を計算したのち、それぞれの % で計算すれば金額がでる。 そして、770 万という所得は非常に高額なため、2 種とも Max の金額を支払う事になる。

その金額を足した額が、前述した 58 万 + 19 万で計 77 万となる。 さらに国民年金の計算が入ってくる。

国民年金は収入に関わらず金額が固定の為計算し易い。

www.nenkin.go.jp

日本年金機構に乗っている内容によると、令和元年では 16,410円 が月の支払い額となる。 年間で 196,920 年の支払いとなり、先程の 77 万と合算すると、966,920 円の支払いとなる。

ここだけみると、じゃあ個人事業主 (フリーランス) の方が安く済んでいるように見えるのが落とし穴である。 国民年金は厚生年金と比較して受給額が低くなる。 それはあたり前の話で、厚生年金は収入に応じて割合を多く回収されており、しかも個人支払いでさえ多く払っているのに、更に半面を会社が収めているというロジックが存在する。 つまり、会社員との決定的な差はここで、「社会保険 + 厚生年金」vs「国民健康保険 + 国民年金」の比較をする事には実は罠がある。

比較をするのであれば、「社会保険」vs「国民健康保険」と「厚生年金」vs「国民年金」という構図を作らないといけない。 そして、「社会保険」は年 397,410 円 、「国民健康保険」は年 77 万という状況である。 会社が支払う半面を考慮すると大体同じなのだが、半面を払って貰えるおかげで大きく有利になっている。

また、年金ではどうなるかというと、「厚生年金」は年 680,760 円、「国民年金」は年 196,920 円となる。 これを見て思うのは、先程でた話で、回収された金額に応じて年金受給額が増額されるという話である。 つまり、この時点で 3 倍程度支払い額に差がある。保険料と年金の合計額は然程変わらないのに、という所がミソとなる。 さらに、厚生年金は半面を会社が負担しているため、実質的に支払われている年金額は年 1,361,520 円という事になり、もし同額年収だったと過程した場合非常に大きな額の差が埋まれる事が分かる (7 倍近くの差がある)。 ここが会社員が貰っている給与にプラスして支払って貰っている半面の金額を計算に入れた方がいいという話の所以である (実質的に年収が 100 万程増えている事になるのが分かる)。

手取り

最後に手取りを計算する事になるが、これは前述した内容全てを収入から差し引くことで計算できる。 会社員から計算する。

(年収) 7,700,000 - (住民税) 542,800 - (所得税) 752,500 - (保険料) 1,078,170 = 5,326,530 円

続いて個人事業主の計算。

(年収) 7,700,000 - (住民税) 739,800 - (所得税) 752,500 - (保険料) 966,920 = 5,240,780 円

このような計算となる。 金額的にはほぼ差はなく、若干会社員の方が手取りが高い結果となる。

ただ、ここでの会社員の年収 770 万というのは非常に高額で、会社員でこの給与が支給されるというのは現代の給与枠組みではなかなか簡単には達成できないと思う。 達成難易度という意味では、現在は、常駐型フリーランスで月 60 万という方が簡単に達成できると断言できる (が、将来性など色々なリスクを何十年も背負い続けられるかは人によるとしか言えない)。

ただ金額的な話で言っても、会社員は半面の支払いを会社に負担して貰える上に、労働者保護の恩恵を受ける事ができるため、リスクヘッジや年金の件と総合して考えると相当に会社員が優遇されている事は考えるまでもない。 金額的で表わしてみると、半面は会社が金額負担してくれているので、その分収入が低めになってもフリーと同等程度の実質年収と言えるため、実は 660 万程度でも十分 フリーランスの 770 万分の価値はあると思う。

また、有給が年 20 日付くようになると、20 営業日の休暇が年間で取得できるため、実質 1 ヶ月分は休暇を取りつつ年収を維持できる計算となる。これを加味した場合、月 55 万 (年収 660 万計算で) を実質稼いだと見なせるため、年収は実質 710 万 + 660 万での半面 100 万 (詳細な計算はしていない) で 810 万程度の価値があると見なせる。 ここに失業時の雇用保険給付や怪我病気による勤務が困難な際に受けられる傷病手当など、様々なリスクに対する措置が存在する上に、産休育休など自己都合による場合の手当も受ける事が出来る (育休は取得条件を満たした上で申告する必要があるけど)。

結論

結論は自分で出して貰う必要があるけど、会社員が相当に優遇されている仕組みである事を理解した上で、納得出来る選択をした方が良いというのが僕の見解。 今時点での給与が低いから会社員をやめてフリーランスになるという選択は否定しないけど、給料だけが原因なのであれば転職活動で解決する方が王道だと思う。結局、今の会社で貰っている金額に不満があるだけなのだから。

独立したい、フリーランスをとりあえず 2, 3 年やってみたいという気持ちを持って僕も独立したけど、途中本当に色々考えたし (知り合いや家族にも漏らしていない悩みは常に持っていた)、手続きや書類対応、申請対応等々面倒な事も本当に多い。 正直、残業代がどうこうという発言をする人には絶対に個人事業主や法人登記は向いていないと思う (常駐型フリーランスだと、常駐先での業務が終わった後、経費対応、月末の請求書対応、申請書類を夜中や土日に作成するはめになる)。

また、今回の計算では経費計上を行なっていないけど、本当は税理士と顧問契約は結んだほうが良い (税務リスクは回避する手段を持つべき)。 良く、記帳代行だけという話を聞くけど、あれは自分が理解していて作業を外出しする人のためのサービスで安い変わりに全然リスクを教えてくれなかったりする。その為、始めて独立する人はちゃんとした税理士を探して契約する事が第一の仕事になると思う。

最後に、今回は言及しなかった方針に法人登記があり、会社の社長となる選択肢なんだけどこれは非常に面倒な作業が多く発生する変わりに税制上本当に有利な措置が多くある。 会社を作り、税理士と話をする機会を作り、経営の指南を受けつつ 3 期目を終わろうとする今こんな話を自分が書けるようになったのはそれなりに感慨深いものを感じる。

金融庁が提示した老後2000万問題もあるし、年金制度の破綻の疑義、終身雇用制度の限界など、今年は就業者にとって本当に大きな問題を考えさせられる年になっているので、税金や保険、雇用制度などを他人事と思わずちゃんと勉強した方が良いと思う。